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【20190809クアラルンプール⇒バタワース】遠くへ行きたいと願ったから。

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3.バスに揺られていると遠くに来た気分になれる

ペナンセントラル行きのバスに乗り込んだのが、13時前だったので、そろそろ14時も近いだろうか。私は、TBSの売店で買った、肉の薄いバーガーをかじりながら、ぼんやりしていた。できれば窓際の席がよかったのだが、予約時に指定ができず、通路側の席をあてがわれてしまった。私の右手では、ヒジャブを被った女性が居眠りをしていた。マレーシアは、ムスリムたちの国である。初めて外国を訪れる人なら、髪や肌を隠した彼女らの顔が、どれも同じに見えるかもしれない。私はそうであった。


クアラルンプールはTBSの売店でパンを買ったのだが、期待していたのとは少し違った。素直にいつものクリームパンを買うべきだったか。

すでに最も暑い時間帯を超えているが、バスの中は涼しく、すこぶる快適だった。前の話でも書いたが、マレーシアの高速バスは、日本のそれとは比べ物にならないくらい豪華で、普通の日本人よりも中途半端に体の大きい私には、どこまでもありがたい。目いっぱい足を伸ばしても、窮屈な思いをせずに済むため、その辺のドミトリーよりも、よほどよく眠れるはずだ。私は高校時代に寄宿舎で過ごしているのでわかるが、ドミトリータイプの宿には、実に様々な思惑の人々が集まるため、8人相部屋にでもなった日には、1組程度はやかましい者がいたりするものだ。韓国のテグ市を旅行したときは、夜遊び帰りの小僧たちにたたき起こされ、閉口した記憶がある。その点、マレーシアの高速バスは静かなものだ。停車地が限られているため、余計な乗り降りもなく、おのずと、体を休めながら目的地に着きたい人々の集まりになるからだ。


バス車内は天井が高くゆとりがある。日本の高速バスにも導入してほしいものだ。

バスは今、クアラルンプールを出発して、一路北へと向かっている。バスとほぼ同じルートで鉄道も走っているが、バスのほうが安かったはずだ。35リンギット(約900円)で東京から名古屋まで程度の距離を行けるので、マレーシアの交通費がいかに安いかよくわかる。経験上、途上国や後進国では、典型的に安いものが3種類ある。外食代と宿泊費と交通費だ。交通費の負担が少ないのは、路銀が限られている者にとっては、非常にうれしい。私は、せっかく海外旅行に来ても、ひとところで落ち着いて観光ができないタチで、街から街へと転々とするのが好きだ。バス代のリーズナブルさにひかれて、そのうちマレーシアに住み着いてしまうかもしれない。


首都クアラルンプールからは、タイの国境まで道路が伸びているらしい。

バスに乗ってから2時間少し経ったころ、最初のバス停に着いた。GPS信号を確認すると、マレーシア中北部のイポーという街に到着したようだ。バスターミナルに停車していたのは10分程度で、乗り込んできた乗客は数名であった。イポーは翌々日訪れることになるのだが、古都の面影が残る、風情のある街だった。後に聞いた話だと、マレーシアンよりもチャイニーズが多いとか。当たり前のことだが、地方ごとに人種や文化の特色があるのも、旅行の面白いところだ。同じ国を旅しているのに、時にはまったく異なる国にいるような錯覚に陥ったりもする。ともかく、ここまでくれば、バタワースも目と鼻の先だ。

こうしてバスに揺られていると、時々昔のことを思い出す。小学生や中学生の時分は、何かにつけて、バスで遠くまで連れていかれたものだ。私はひどい乗り物酔い持ちで、それは何度となく苦しんできたが、中学生になったあたりから、ぱったりと乗り物酔いがやんでしまったのを覚えている。それ以来は、車内で本を読もうが何をしようが、平気で何時間も乗っていられるようになったから不思議だ。長い時には、1日で21時間ほど電車を乗り継いだこともあった。もしも、生来の乗り物酔いが治らないままだったら、こうしてふらふらと旅することもなかったのだな、と思う。遠い日に思いをはせると、自分がずいぶん遠くまで来たように思う。心がどんどん遠くへ行きたがっているようだ。ともあれば、逃避へのあこがれに近い。


一番長い電車旅は静岡から四国までだが、二番目は北京から南京までの寝台列車だった。騒いでいると公安に叱られるのか、消灯時間を過ぎたら静かであった。

左手を見ると、海を渡る長い橋が目に入った。ペナンブリッジと呼ばれる、マレーシア本土とペナン島郊外を結ぶ橋だ。ここを渡れば、ひょいとペナンまで10分程度で着くそうだ。バタワースは本土側に位置しているため、今回は橋を通らず、遠目に眺めるだけだったが、いずれは渡ってみたいものだ。あれだけ巨大な橋なら、海の真ん中に浮かんでいる気分を味わえるだろう。さて、ペナンブリッジが見えたということは、当面の目的地であるペナンセントラルのターミナルは、もうすぐだ。飛行機内から失敬してきた使い捨てスリッパをリュックに放り込んで、そろそろブーツの靴ひもを結びなおそうか。

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